Q 私は日本在住で、アメリカ人前夫との間に3歳の子どもが1人います。子どもは日本とアメリカの二重国籍で、現在私と日本に住んでおり、前夫は仕事の都合で現在オーストラリアに就労ビザで滞在しています。最近、前夫と子どもの養育費のことでもめている関係で、直接話し合いをするために子どもと2人でオーストラリアに短期で行こうかと考えていますが、その際に何か注意することはありますか。(38歳女性=会社員)

A

単刀直入に申し上げますと、ご相談者がオーストラリアに子どもを連れて行くことはお勧めできません。なぜなら、「オーストラリアに滞在中であれば、その子どもの養育に関する申し立てを家庭裁判所で行うことができる」という規定があるからです(FAMILY LAW ACT 1975:条項69E)。極端なことを言えば、たとえその子自身がオーストラリアに何の関係もなく、ただ観光ビザで一時滞在していたとしても、養育に関する申し立てが裁判所で行われた場合、オーストラリアの裁判所が法管轄権を持つことができる、つまりオーストラリアで裁判を行うことができるというわけです。

また同条項は、子どもがオーストラリア籍の場合、あるいはどちらかの親がオーストラリア国籍または永住権保持者の場合でも、家庭裁判所に管轄権を与えると規定しています。

実際に私が担当したケースで、日本国籍の母親が同じく日本国籍の子どもを連れてオーストラリアに滞在中の父親に子どもを会わせるため、日本から観光ビザでシドニーを訪れました。父親は第三国籍保持者で、オーストラリアの国籍も永住権も有していませんでした。旅行が終わり、母親は子どもを連れて出国予定日に空港へ行ったところ、その子の名前が出国禁止名簿に記載されていることが分かりました。父親が、前日に子どもとの居住に関する申し立てをシドニーの家庭裁判所で行っていたのです。

出国禁止名簿は、いわゆる連邦警察の管理する「Watch List」と呼ばれるリストで、18歳未満の子どもが一度記載されると、成人するまで裁判所の命令がない限り出国できなくなります。同リストに載ったことを機に、母親はシドニーの家庭裁判所での争訟(そうしょう)参加を余儀なくされることとなりました。実に2年半にわたる長い裁判となりましたが、母親は観光ビザ以外に有効なビザ申請資格を持っていなかったため、子どもを連れて日本に帰れるようになるまでに、観光ビザで計13回シドニーと日本を往復、毎回シドニーでホテル滞在することになりました。その莫大な費用と労力は想像に難くありません。

上記のケースからお分かり頂ける通り、子どもに関する問題を抱えている場合、安易な気持ちでオーストラリアに渡航することは、予期せぬ結果を招くことがあります。“国によって法律が異なる”ことはなかなか認識できないものですが、現実にこうしたことが起こり得るということ、またその影響は非常に大きいということを理解して頂けたらと思います。

ちなみに、子どもの養育を審理する裁判所の法管轄は、家族法の中でもとりわけ複雑な分野です。先述の通り、オーストラリア滞在事実が管轄要件を満たし、当地の裁判所が管轄権を持つ場合もありますが、ご相談者のように子どもが日本国籍の場合、日本の管轄要件を満たすこともあり得ます。更に子どもが日本国籍保持者ではなく第三国に関係していた場合、その国(ご相談者の場合はアメリカ)の管轄権が満たされる可能性もあるでしょう。つまり、子どもに関する法管轄は複数あり得るということです。しかし、いったん始まってしまった裁判の法管轄権に異議を申し立てることは大変困難であり、その分野に精通した弁護士のアドバイスを受ける必要があることは言うまでもありません。